海山林友株式会社 藤村寿さん

チーム内の先輩である西村さん(右端)と藤村さん。川端社長(左端)は「新人さんは、チェンソーの持ち方より先に販売を覚えてもらいます」と笑う

木を切って終わり…ではなく販売活動も行う
二刀流の精神で、新しい時代の林業従事者に

海山林友株式会社  藤村 寿さん(41歳)

三重県の南部、紀北町から尾鷲市に広がるエリアは、良質なヒノキの生産地として知られています。2016年に開催された「G7伊勢志摩サミット」では、各国首脳たちが集う会議用の円卓に尾鷲ヒノキが使われました。さらに、2017年には「尾鷲ヒノキ林業」が、日本農業遺産第1号に認定されるなど、高級材として全国的にも高い知名度を誇っています。
今回お邪魔したのは、その紀北町にある海山林友株式会社。社屋の横に建つ研修室では、林業や森林の最新情報が学べる講座やイベントが定期的に開催されています。

結果がすぐにわかるのが林業の魅力

今回お話を伺う藤村さんは、生まれも育ちも、そして就職先も紀北町という生粋の紀北っ子。
高校卒業後、地元の企業を中心に様々な職業を経験した後。26歳の時に知人の紹介で林業の道を志すことになりました。「父親が製材会社に勤めていたので、林業という仕事のイメージはだいたい掴んでいました」と、転職に関しても気持ちの上でそれほど抵抗は感じなかったそうです。
「体力的にキツいというのはある程度覚悟していたので、就業前に想像していた姿とのギャップはそれほどなかったですね」と振り返ります。

「一言で表すと、結果がすぐに出て、わかりやすい」と林業の魅力を語る藤村さん。林業従事者となってから約16年。全く未経験からのスタートではありましたが、3年ほど経った頃にチームを組むメンバーから相談を受けるようになったことが自信につながったということです。「この時に、周囲から信頼されているという実感を得ることができましたね」。
自らの考えによって現場を動かせるようになったことで、面白みが増してより高い意識で取り組むことができるようになったそうです。

「林業の場合、ちょっとした油断が重大な事故につながります。仕事に慣れてきて〝まぁ、いいだろう〟というような気持ちが芽生えてくると危ない」と語る藤村さん。
事故を防ぐには、普段から先輩の言うことを聞いたり、安全講習に参加したりすることが必要だとか。「すでに知っていることでも、面倒くさがらずに何度もインプットしていけば、リスクはかなり減らせると思います」。
何度も何度も繰り返して頭の中に叩き込む。地道な行為を怠らない日々の営みが、労働災害を防ぐことにつながるし、このことは後輩にも伝えているとのことでした。

「こういう木がほしい」との声に応える

林業従事者として、順調にキャリアを積んできた藤村さん。これから力を入れたいことはとの問いに対して「販売」との答え。んっ、ハンバイとは?はっきり言って、林業従事者からは余り聞くことのない言葉です。
何と藤村さん、林業の現場仕事と並行して伐倒した木の販売活動も行っているとのこと。
「こういう用途で、このような木材がほしい」という購買者からの要請を受けて、対面での取引を行うために県内各地はもちろん、九州や中国地方まで赴くこともあるそうです。

「このエリアにある人工林の90%以上はヒノキです。雨が多くて表土が堆積せず全般的に土地が痩せているので、スギの成長はなかなか難しいんですね」と語るのは、代表取締役の川端康樹さん。木が成長しにくいということは年輪が密になるということであり、年輪が密というのは品質が良い証です。ただ、高級志向のヒノキは現在求められているマーケットに合わなくなってきているそうです。
「地域の資源量なども鑑みて、需要が減りつつある木をどのように売っていくのか。彼を含めた3人のチームに知恵を絞ってもらっています」と川端さん。
日常的に山に入って作業を行うと同時に、市場のニーズを考えながら販売促進にも携わるというのは、これからの林業従事者像を考える上でのモデルケースになりそうです。

木の販売と山での作業、どちらも林業

一般的な事業体では、山で伐倒した原木は木材市場に出荷します。しかし、海山林友では市場を通さず藤村さんたちが直接お客様と価格も含めた折衝を行います。このようなシステムを確立しているのは、三重県内では今のところ当社のみでしょうと川端さんは語ります。
「チェンソーを持ってどれだけ伐倒できるかということに加えて、お客様にその木をどう使ってもらうか。間伐することによって、山がどう変化していくかがわかるような人材が増えてほしいですね」。
経営やマーケットの指標となる数値に興味を持つようになると、地域資源の価値も理解できるようになるし、将来の伸びしろが大きくなることが期待できるということです。

藤村さんも「実際に木を買っていただくお客様と話をしていると、知らなかったことや気づかされることが多いですね」と語ります。自らの考えと木を使う側の評価に差があることもあり、それは仕事の進め方を改善していく上で大いに参考になるそうです。
「販売活動と山での作業を区別するという考えはありません。販売も作業も林業であり、僕の中では一体化しています」と藤村さん。購買者の声を直接聞くことで、林業という仕事の幅が大きく広がっていくのを実感しています。

時代に合った新しい発想ができる人材を

「当社では公共事業をほぼ受注していません。必然的に他の手段で、どのように利益を確保していくかというのが経営課題となります。これからは、所有者さんたちが個人資産として持っている山をお預かりして集約化し、それを長期にわたって管理できる体制づくりが求められていると思います」と力説する川端さん。木の価値や山の造り方を理解して、所有者さんから信頼を得ないと次世代のリーダーは務まらない。色々な勉強をしながら、学んだことを実践している藤村さんはそのポジションにふさわしい存在だと太鼓判を押します。
「我々の世代は、経験値が邪魔をしてどうしても否定的な言動が多くなります。伝統を引き継ぐという考えに囚われずに、時代に合わせた形で新しい発想を持った若い人たちがどんどん出てくると、林業の将来も明るくなってくるでしょうね」とは川端さんの言葉です。

「価値のない木」をどう有効に活用するか

伐採された木の集積場である土場で、すぐに目に付いたのが横たわる太い丸太。どういうところで使われるのかをお聞きすると「神社に建立される鳥居です」と藤村さん。ここには、さまざまな用途で使われる出荷前の木が、切り揃えられた状態で保管されています。
「建築用のほかに、水産業や造園業で使われるものが多いですね。最近ニーズが高いのが、カキや真珠などの養殖いかだ用の丸太です」と話す藤村さん。瀬戸内海のカキ養殖業者から相談を受ける機会も多く、自身も広島県まで出張することもあるそうです。
「曲がっていたり、節があったりして建築用では使えないとされる丸太でも、水産業者からは歓迎されるんですね。このような眠っている需要をいかに掘り起こすか。それがこれからのキーポイントになると思います」と川端さんも言います。

苗から始めて市場が求める木を育てる

「山の木を切った後は、改めて植林を行うわけですが、その時に使う苗も彼らが作ってくれています」と川端さん。土場に隣接する広大な苗床に案内していただきました。
自然界の中でまっすぐに成長している木を選び、その枝を使って挿し木を行い、クローンを増殖させていきます。こうして育てた木は「まっすぐにしかならない」そうで、ある意味林業の常識を覆すような10年という短いスパンでも出荷できて商品になるそうです。
「需要のある木を作る」という信念の元で、植える・育てる・販売するという一連の流れが、しっかりとシステム化されている姿が、そこにはありました。

「マーケットイン」の姿勢が林業を変える

「マーケティングをしっかり行い、用途があらかじめ決まっていると、必要以上に木を切る必要がありません。また、我々だけで吸収できない木材は、バイオマスの燃料として持っていくことになるので、切った木を捨ててくるという行為が激減しています」と川端さん。山を荒すことなく、環境保護の観点からも良い影響が見込めると説かれます。
藤村さんも「林業がなくなることはないと思いますが、現状に対しての危機感は相当あります。個人的にはやはり販売を強化して、販路を広げていきたい。国内各地はもちろん、海外も視野に入れるぐらいになれればいいですね」と意気込みを語ってくれました。

林業の在り方がドラスティックに変わるもしれない、そんな取り組み。

「尾鷲ヒノキの産地」紀北町からもう、はじまっています。