中勢森林組合 西 晋矢さん

「僕がこの業界に入ったばかりの頃と比べても、現状が変わったのを実感します」と西さん。
現在、そして未来に向け進化していく林業の姿に、ぜひ関心を持ってほしいと切望する

将来の林業を担う人材
林業の現在・過去・未来について熱く語る

中勢森林組合 西 晋矢さん(29歳)

西さんの所属する中勢森林組合は三重県津市白山町にあり、森林の管理や経営をはじめ、林業環境の保全及び木材の利用拡大などを主な事業として行っています。一般の林業会社が主に行う植林や間伐、伐倒など一連の業務に加えて、脱炭素社会への対策や治山による自然災害の防止など、森林の持つ幅広い機能の維持・整備にも取り組み、地域社会への振興にも貢献しています。 ウッドタイルが張り詰められた壁面が印象的な館内は、テーブルや椅子、遊具など木の温もりを感じさせる木工品で占められています。

「林業は大変な仕事」だとは思わない

今から3年ほど前に中勢森林組合に就職した西さん。生まれは三重県度会郡大紀町、山や森林が身近にある環境で育ちました。「幼い頃は、近所の山が遊び場でした。知り合いに林業従事者もいましたし、手に職が付くような仕事がいいと思っていたので、高校を卒業して地元の森林組合に就職しました」。7年ほど勤めた後「まだ若いうちに故郷から出て、色々な経験をしてみたい」との思いから、同組合の一員となることを決意したそうです。

真っ黒に日焼けしている西さんに「仕事のせいですか」と尋ねると「いえ、サーフィンです」と笑顔。休日には良い波を求めて伊勢志摩方面まで足を伸ばすそうです。「基本的に残業はないし、休日に出勤するようなこともないので、趣味に費やす時間も充分に取れます」とのことです。
一般企業や工場に勤める友人からは「林業って大変な仕事だね」と言われることも多いそうです。それに対し西さんは「僕から言わせると、毎日のように残業があるとか夜勤があるとかいう人の方が、よっぽど大変じゃないのかなと思いますね。林業が特別にハードな仕事だとは感じません」と語ってくれました。

自らの能力を高めれば、事故は防げる

営業の仕事や、工場での勤務でも事故に会う可能性はゼロではない。だから林業だけが危険が多い仕事だとは思わないとも語る西さん。「事故の多さをよく指摘されますが、僕は『危険は自分の力で回避できる』と思っています」。
危険を察知して、それを避けるのも技術の一つ。現場では緊張感を絶やさない、今までの経験値を上げることで事故の確率を限りなく下げることができるとか。後から事故を振り返ってみると、やはり当事者の行動にすべての原因があるとも。「能力を高めれば、事故は防げます」。西さんは力強く言い切ります。

林業従事者として、10年以上のキャリアを積んでいる西さん。「でも、覚えることが多くて…、すべてにレベルアップが必要です」と謙虚な姿勢を崩しません。仕事の進め方についても、まだまだ満足はしていないとか。
「伐倒する時間を30秒短縮できれば、100本で3,000秒の余裕が出て、より多数の木を切って出荷することができます。同じ仕事をするにしても、ただ漫然と行うのではなく、いかに生産性を上げて売上げアップにつなげるかという気持ちを持ち続けていかないと、僕自身の成長もないし、マンネリ化して面白くなくなると思います」。
常に向上心を忘れない、西さんらしい言葉で語ってくれました。

分業制にして、専門性の高い人材を

先ほどの話に戻りますが…と西さんが語り始めました。「林業って、とにかく覚えることが多いし、やることも幅広い。結局『あれもこれも』とオールラウンドにこなせる人ばかりになってしまうし、そういう人材を求めがちです。もっと役割分担を行い、分業制になっていく必要があると感じます」。
一部分の職域に詳しい特化型の人材の必要性に加えて「まず体力ありき」のような林業従事者のイメージも変えていかなければと言います。
「例えば、重機の操作などは絶対に女性の方が向いていると思います。正確さとか慎重さの面で。それこそ、さまざまなシーンで専門性を持った人が林業に興味を持ち、活躍できるような形を作っていけるといいですね」。西さんが思い描く、林業の未来像です。

林業を根底から変える高性能機械

現場では、基本的に4人でチームを組んで作業を行うとのこと。「トランシーバーで常に連絡を取り合っているので、ひとりで黙々というようなことはないです」と西さん。
伐採した木の枝を取り払って、規定の長さに切るプロセッサ、立木を伐倒して枝払いをした上で切断するハーベスタ、グラップルクレーンで木材をトラックの荷台に積むフォワーダなどの高性能林業機械により、伐倒から造材までの工程が飛躍的に進化しました。人手が加わっていた時代に比べると、事故に会う確率も減少しているとのことです。

全国の仲間と考える、林業のこれから

「有名ブランド製で機能性だけなく、ファッション性も優れたユニフォームなども出てきています。登山やキャンプなどのアウトドアブームということもあるし、そういう面から林業に触れたいと思ってくれる層が増えればいいですね」と語る西さん。
また、講習会やSNSで知り合った同業の人たちとの情報交換も欠かさないそうです。
「この業界は、横のつながりが広いというか、全国各地にいますからね。他県で行っている先進的な取り組みを聞いて三重県でもできないかとか、僕たちより下の世代に関心を持ってもらうにはどうしたらいいかとか話し合うこともあります」ということです。
理路整然と語るその姿に感心しつつ「ずいぶん研究熱心ですね」と声をかけました。すると「僕もこれから結婚して、子どもを授かって、育てていかなきゃいけない。やっぱり、お金もかかります。その時に林業が衰退していては困りますから」と、人懐っこい笑顔を浮かべながら答えてくれました。

林業は3Kか?変わりつつある現状

西さんの上司にあたる山崎昌彦さん。「県内のチェンソー大会で優勝するなど、普段からスキルの向上に積極的に取り組んでいます」と、西さんを高く評価しています。
中勢森林組合の理事参事を務める山崎さんに、全般的な林業の現状についてお話をお聞きしました。
林業を語る上で、どうしても付き物なのが3K(キツい・汚い・危険)という言葉です。ただ、山崎さんによると現在ではかなりの部分で改善、もしくは進化しているそうです。
「まず『キツい』ですが、今は高性能の林業機械や重機などの普及により、人力に頼っていた部分がかなり置き換わっています。もちろん、ある程度の体力は必要ですが、林業イコール重労働であるというイメージは徐々に薄まっているのではないでしょうか」。

「重機の運転席は冷暖房完備ですし、通気性が良く軽い素材を使った作業着や、電動ファンの付いた空調服なども出てきており、快適性も向上することで『汚い』という部分も変わってきていますね。ヘルメットや備品のカラーリング一つとっても、センスのいいものが増えているような気がします」と山崎さん。
デジタル化にも手を付けており、現場の行動管理や進捗管理などにはタブレット端末を使っているほか、森林資源の調査や、境界の明確化などを航空レーザーで計測して、作業を効率化する動きも始まっているそうです。

スマート林業の推進で更なる効率化をめざす

「ドローンを活用した森林管理など、最新のICT技術を駆使した取り組みが全国的に広がっています。いわゆる『スマート林業』ですね」と語る山崎さん。国の施策として打ち出されていることもあって、林業のIT化は急速に進んでおり、コスト面の抑制による生産性に加えて、安全性の向上にも寄与すると言われているそうです。

さらに山崎さんは、これからの林業についても言及しました。「林業というと、山の木を伐って搬出するというハード面に目が向きがちですが、もはやそれは林業の一部分を語っているに過ぎません。脱炭素化、カーボンニュートラル、あるいは防災という観点から、森林管理の必要性が高まっており、林業の果たす役割は大きくなっていくと思います」。スマート林業には、さまざまな分野で専門知識を持つ多様な人材が必要とされています。それに加えて、若い世代や女性が活躍できる場も益々広がっていくのは間違いないとのことでした。